| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
シンポジウム S26-6 (Presentation in Symposium)
都市化の進展に伴う自然の改変により、日常生活の中で自然とふれあう機会は少なくなっている。自然離れが進むことにより、自然に対する親近感や関心、保全意識が低下し、さらに自然とふれあう機会が少なくなるというような悪循環が生じている。このような悪循環から脱却するためには、世界人口の大多数が居住する都市において、人と自然の関係を再構築することが必要不可欠となっている。都市における生物多様性保全や生態系再生に向けた取組を進めていく上で、多くの自治体では、予算の制約などから生物多様性に関する基礎情報が不足している課題がある。
演者は、市民参加型生物調査の現状と課題および緑の基本計画(都市緑地法第4条)への活用可能性を把握することを目的として、首都圏における30の自治体を対象に、アンケート調査やヒアリング調査を実施した。その結果、緑の基本計画における「生態系ネットワークの核となる地域」を示す際の根拠や、それらの地域の一部を特別緑地保全地区(都市緑地法第12条)に指定する際の根拠として、市民参加型生物調査の成果を活用している事例も少数ながらみられた。また、アンケート調査の結果、市民参加型生物調査の成果を緑の基本計画に活用することのメリットとして、「計画内容や計画に位置づけられた施策を推進するにあたり説得力が強まる」、「調査参加者の参加意欲の向上」などの回答がみられた。生態学的に価値の高い緑地が評価・保全され、住民がその緑地を利用して身近な自然から季節感を感じることで、地域の愛着や自然への関心が高まり、さらなる生き物調査や緑地管理活動が展開されるような好循環が生まれれば、都市における人の自然の関係の再構築にもつながっていくと考えられる。
本講演では、上記の調査結果について紹介するほか、新たな情報技術の活用可能性も含めて、緑の基本計画に生物多様性情報を活用することの意義や課題に関する論点を提示したい。