| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W01-1 (Workshop)
島の生物と生態系は、固有種率の高さゆえに外来種や人為的な撹乱に対して脆弱な系であることが知られている。しかしこうした島においては、近年大きな課題となっている気候変動の影響に関する研究が乏しく、あっても種分布モデルを用いた潜在分布域の将来予測が殆どである。モデル予測では散布や競争など生態的なプロセスを考慮し切れていないことが多いため、観測による実際の分布変化を基にしたプロセスへのアプローチが必要不可欠である。本発表では、ハワイと日本における野外調査によって島の植物種における分布移動を実測し、その背景にあるプロセスに迫った研究を紹介する。
ハワイにおける研究では、1970年代にハワイ島マウナロア山で標高傾度に沿って植生調査されたプロットを2010年に追跡調査することによって、69種の植物における標高分布移動を評価した。解析の結果、外来種では標高分布の上限・下限とも上昇していたのに対し、在来種では上限が固定されており、下限が上昇する傾向が解明された。これは地形的に形成される雲霧帯高度を超えた高標高域の乾燥が在来種の上限における分布上昇を食い止める障壁として作用する一方、より低い標高域では温暖化や低標高域から侵入する外来種との競争作用を受けて分布が上昇しているものと推察された。
日本における研究では、高木樹種を対象に、古い年代に定着した場所を示す母樹(林冠木)の分布域と、近年定着した場所を示す稚樹(林床木)の分布域のずれを、分布移動の指標として日本全国の302種を対象に解析を行った。その結果、全体的に稚樹が母樹よりも寒冷な場所に分布している傾向が見られ、温暖化の影響が示唆された。また軽い種子を持つ種ほど稚樹母樹差が大きいことや、場所によっては反対方向のずれが見られるなど、散布や競争といった生態的なプロセスの影響が示唆された。