| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W01-3 (Workshop)
島嶼内における時空間的に多様な環境は、そこへ移住した生物の独自の進化や、適応放散をしばしば促すが、その遺伝的ソースとして大陸から持ち込まれた祖先多型や移住後の遺伝子流動が大きな役割を果たすことがある。特に第四紀の気候変動の下では、島嶼に生息する生物は限られた空間内で急速に変化する環境に適応することを迫られ、その際、集団内に保有していた遺伝的多型(Standing genetic variation)の存在が環境適応と絶滅回避に大きく貢献した可能性がある。南北に長く多様な環境を有する日本列島では、様々な生物で環境適応形質の多型が見られるが、列島内の積雪/非積雪地域に対応して分布するニホンノウサギの冬季毛色二型もその1つである。本研究では、本種の毛色二型に対するGWAS解析を行い、ニホンノウサギの毛色二型の責任遺伝子領域を特定することに成功した。また、冬毛への換毛初期において、特定した遺伝子のアレル間で発現量の違いが観察され、発現量調節に関わるシス変異が二型の原因であると推測された。一方で、大陸の同属種を含めた系統解析から、ニホンノウサギの毛色二型に関わるアレルの分岐は、ニホンノウサギの種分化よりも古いことが明らかとなり、種分化以前からの祖先多型か、もしくは未解析の他種からのイントログレッションに由来している可能性が示唆された。ニッチモデリング解析では、ニホンノウサギの毛色二型は過去の氷期・間氷期サイクルの中で分布が大きく変化しながらも、列島内で維持されてきたと推定された。ニホンノウサギが大陸種から分化したのは第四紀前期まで遡るが、これらの解析結果は、ニホンノウサギの毛色二型が最終氷期の遥か以前から第四紀の気候変動の下で平衡選択により維持され、環境適応と絶滅回避に貢献してきた可能性を示唆している。