| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W01-4 (Workshop)
爬虫類をはじめとした外温性動物の捕食被食関係において、被食者の捕食回避は、被食者のみならず、捕食者の熱収支に基づく生理的・行動的応答にも影響される。そのため、被食者が捕食の脅威から生き延びるためには、最大のパフォーマンスを達成できる最適な体温を、常に維持する必要がある。それと同時に、最大のパフォーマンスを発揮できるような効率的な形態への適応進化もまた、重要な要素となる。本研究では、1981年から2019年、およそ40年間にわたり、伊豆諸島にて野外調査を行ってきた。これにより、捕食者であるシマヘビの在不在が、被食者であるオカダトカゲの生理的・熱的応答と形態的応答に与える影響を検証した。それと同時に、この40年間におけるオカダトカゲの体温変化についても調べた。その結果、シマヘビがいる島のオカダトカゲは、シマヘビがいない島のものに比べて、体温がおよそ2.9℃高いことがわかった。加えて、オカダトカゲがシマヘビから逃げる時の速度には、後脚の長さが中心的な役割を担っていた。シマヘビのいる島では後脚の長さに、シマヘビからの捕食圧に起因する正の自然選択が働いていた。これらの結果は、シマヘビがいる島のオカダトカゲは、常に高い体温を維持した上、より速く走ることができる形態に適応進化することで、シマヘビの捕食から回避してきたことを示す。さらに、オカダトカゲの体温は、この40年間で、1.3℃の上昇が見られた。オカダトカゲのこの体温上昇は、現在、地球規模で急速に進行する地球温暖化に伴うものであると考えられた。これらのことから、さらなる温暖化は、外気温に依存した捕食-被捕食者間の関係性を取り返しのつかないほど劇的に変化させることを示唆する。したがって、今後の温暖化により、生物間の関係がいかに影響を受けて変化していくのかを、我々は注視していく必要があるだろう。