| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W02-1 (Workshop)
ゲノム分析技術の進展とともに,野生生物においてもゲノム全体の遺伝変異を調査できるようになった.ゲノム縮約解読を行えば数千から数万個の遺伝マーカーを簡便に取得でき,従来の分析法に比べて効率的かつ正確に生物の遺伝多型を評価できる.こうした多型の大半は進化的に中立で集団の動態を反映するため,種内の管理単位や保全集団の優先順位づけに利用されている.いっぽう全ゲノムマーカーの中には環境適応に関わる非中立変異も含まれる.保全生物学で重視される集団の進化可能性にはこうした非中立変異も関与するため,両クラスのマーカーを使い分けることで異なる観点から多様性保全を考えることが可能となる.
キク科アオヤギバナは,東北から沖縄本島に分布する渓流沿い植物である.分布は広いが各地で小集団化していることから,多くの県で絶滅危惧種に指定されている.アオヤギバナは同属のアキノキリンソウから派生し分布拡大した種だと考えられてきたが,中立マーカーによって種間関係を推定すると本種は多系統となり,各地で類似の表現型が平行選択されて生じたエコタイプ(以下,渓流型)であることが分かった.共通圃場実験で渓流型集団の表現型を詳細に比較すると地域間分化が見られたことからも,別個のESUとして扱うのが適当と考えられた.また渓流型は一般型と側所分布する場合が多く,集団ペア間で遺伝子流動が起きている地域もある.その場合,局所適応に関連する遺伝変異を特定し,野外集団での分布を把握することが渓流型の保全において重要となる.そこで沖縄本島のペアから交配家系を作成して葉形態と開花期のQTLを推定した.検出されたQTL領域と,pool-seqで検出された高分化ゲノム領域を重ねると,葉形態形成および開花期関連遺伝子が分布していた.今後はこうした遺伝子の変異を適応候補マーカーとして,野外および域外保全集団における非中立変異の評価に活用することを検討している.