野外調査では目視による確認が困難な希少種も少なくない。地下水や河床などは一般的にアプローチが難しく、特に前者の生態系では体系的な生息調査がほとんどされていないのが現状である。そこで本研究では、環境DNAを用いて地下水生種であるメクラヨコエビ属及び渓流植物カワゴケソウ科植物の分布調査を行った。
　まずメクラヨコエビ属については、京都府において地下水を汲み、ミトコンドリアDNAの16S領域を用いたメタバーコーディングを実施した。その結果、メクラヨコエビ属の配列と考えられる2つのハプロタイプが京都府の2か所から発見された。京都府からはキョウトメクラヨコエビの生息が確認されているものの、2つのハプロタイプはそれぞれ系統が異なることから、いずれかが未記載種由来である可能性が示唆された。
　次にカワゴケソウ科植物については宮崎県及び鹿児島県において河川水を汲み、葉緑体DNAのtrnL P6 loop領域を用いたメタバーコーディングを実施した。その結果、既知の生育地からはいずれもカワゴケソウ科植物の生育が確認できた。また既知の生育地以外からカワゴケソウ科植物の検出はできなかったものの、本種のような渓流の河床に生育する植物にも環境DNAによる分布調査は十分に適用可能であることが示された。