| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W02-5 (Workshop)
生物の保全優先度を評価するにあたって、まず考慮されるのが個体の多寡であり、どこにでも生育している普通種よりも個体数の少ない希少種の方がより保全優先度が高くなるのが一般的である。
我が国における希少種の保全上重要な役割を果たしている「種の保存法」で指定される国内希少野生動植物種等の希少種は、それぞれ野生個体数が極めて少ないという点で共通しているが、各種の内情は大きく異なっている。国内希少野生動植物種に指定されている維管束植物176種のうち、4割を超える75種は海外にも生育している。国内に生育する個体数をもとに希少種は認識されるが、生物の分布に国境は関係ないはずである。これら日本国内で希少種として認識されている分類群に関しては、海外個体群と比較した生物学的なユニークさを考慮することは適切な生物保全策構築には必要不可欠である。
本研究では、日本では個体数がきわめて少ないものの、大陸や台湾と近接するがゆえに相当数の同種個体が海外にも生育している琉球地域の複数種の希少植物を対象に、国内外の個体について比較ゲノム縮約解読を行った。その結果、100個体程度の集団内に、豊富な遺伝的多様性と系統的ユニークさが保持されている種(ツルウリクサ)、国内複数集団に系統的多様性は保持されているもの、1集団は1クローンで構成される種(マツムラソウ)、海外から1〜少数個体が来訪後、有性生殖により数回の世代交代が行われ、現在1クローンのみが残存している種(ナガミカズラ)、海外から来訪した1個体がそのまま無性成長して数千のラメットが存在する種(ランダイミズ)など、解析を行った種ごとに特徴的な状況が見いだされた。従って、このようなタイプの分布を行う種に関しては、国内外の個体を対象としたゲノムワイドな解析が、「希少種」の適切な保全価値評価に有効であると考えられる。