| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W03-2 (Workshop)
海浜は海と陸に挟まれた砂浜からなる特殊な地形であり、海水による波浪や日照、そこに特徴的な植物群への適応が要求される過酷な環境である。少数ながらそのような場所にも進出し、特殊化した海浜性昆虫と呼ばれるグループが存在する。このような海浜性昆虫は飛べないことが多く、海岸線沿いに飛び飛びになった狭い砂浜に生息している。そのため、集団の遺伝的分化が頻繁に起きるうえにそのような分化途上の集団が二次的に接触するなど、種分化のモデルケースとなりうる。
スナムグリヒョウタンゾウムシ(Scepticus tigrinus; 以後スナと省略)とトビイロヒョウタンゾウムシ(S. griseus; 以後トビと省略)は飛翔能力を欠いた海浜性のゾウムシで、スナが日本海と北日本沿岸に、トビが東北以南の太平洋側から南日本沿岸に分布しており、両種は分布域の大半で異所的だが、九州北部から中国地方の日本海側で約400kmに渡って混生している。2種間の雑種はこの同所的な生息域でも見つかっていない。この2種については、同所的な地域の集団で異所的な地域の集団に比べて雄交尾器の骨片形状と大きさが顕著になるという形質置換が確認されている。本発表では、このような交尾器形態の違いが交尾選択に関与しているかどうかをテストしたうえ、生息場所や色彩などさまざまな形質で同様に形質置換が起きているかどうかを検証する。これらの結果から、同所的な形質置換が異所的な集団間での種分化を促進する“波及的隔離強化”について、これまでわかっていることを議論する。