| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W03-3  (Workshop)

海浜性ハンミョウにおける砂色と一致した隠蔽的体色の進化
Evolutionary fine-tuning of background-matching camouflage in the sandy beach tiger beetle

*山本捺由他(環境省), 曽田貞滋(京都大学)
*Nayuta YAMAMOTO(Ministry of the Environment), Teiji SOTA(Kyoto Univ.)

 砂浜は高い捕食圧や強い日射にさらされる環境であるが、そこを主な生息環境とする昆虫が存在する。彼らはどのようにその過酷な環境と折り合いをつけているのだろうか。本研究では夏の日中に砂浜で活動するカワラハンミョウChaetodera laetescripta(甲虫目:ハンミョウ科)を対象に、捕食回避や体温調節上重要な形質である体色に着目してその進化要因と過程を総合的に検証した。
 捕食者(鳥類)の色覚を考慮したデジタル画像解析により、本種の上翅の輝度(明るさ)を評価した結果、捕食者の目から見て識別しにくいほど背景の砂色と似ていることが示された。また、前胸背板の白毛も一定の隠蔽効果を示すことが示された。本種の模型を用いた野外捕食実験から、砂色と近い体色の方が捕食者から襲撃されにくいことが実証された。
 RAD-seqを用いて地域個体群間の遺伝的距離を推定し、地理的距離および白紋密度の地点間距離の間の関係を評価した結果、本種の模様は個体群ごとに独立して繰り返し進化したことが示唆された。砂色と気候条件(気温と日射量)が体色に与える影響をPGLSにより評価した結果、個体群間の遺伝的関係を考慮した上でも砂の色が体色に大きく影響していたのに対し、気候条件の影響は見られなかった。
 体色は捕食圧のほかに体温調節や配偶者探索に対しても重要な影響を及ぼす可能性がある。そこで室内行動実験を行った結果、体色間で体温調節行動の頻度に違いは見られなかった。また、異なる背景色間・体色間で選択される配偶者の頻度に違いは見られなかった。
 以上の結果から、本種は砂浜環境を生き抜く上で背景色との一致による捕食回避が最重要であったことが示された。


日本生態学会