| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W07-1 (Workshop)
植物の分布拡大は、既存の集団から生態的空白地域への個体の移入から始まる。少数の創始者による移入プロセスは、浮動による遺伝的多様性の減少を伴う。しかし、創始者集団は、種子や花粉を介した集団外からの遺伝子流動によって遺伝的多様性を回復でき、多様性の回復はその後の分布拡大に影響を与える可能性がある。分布拡大における遺伝的多様性の回復過程を明らかにするために、種子と花粉を介した遺伝子流動をブナ北限の分布拡大前線で調べた。ブナは約6000年前に渡島半島の南端から北進して約1000年前に北限の黒松内に到達したと考えられている。近年、北限とされていた場所からさらに10km以上北にブナの小集団が発見された。この最北端の集団における合計150個体および225個の種子について、核マイクロサテライトによる遺伝的多様性、空間遺伝構造(FSGS)、および他の5つの北限集団との遺伝的分化を調べた。さらに、さまざまな生育段階において、種子および花粉による遺伝子流動と遺伝的多様性への寄与を解析した。分布最前線の集団は、強い遺伝的浮動を反映した低い遺伝的多様性と顕著な遺伝的分化を示した。成熟個体ではFSGSが認められず、負の近交係数を示したことから、外の種子源からのもたらされた創始者であることを示唆した。幼木集団では、種子と花粉の移入によって集団内の対立遺伝子の数を増やし、定着初期の遺伝的多様性を高めることに貢献していた。とくに、外部からの有効な花粉親数(20.8)は、集団内のそれ(2.1)よりも著しく高かった。これらの結果は、花粉流動によって新しく、まれな対立遺伝子が加入し、集団の遺伝的多様性を増加させたことを示している。しかし、創始者個体が成熟してサイズが大きくなるにつれて集団内個体の繁殖成功が増加し、外からの遺伝子流動の割合が減少する傾向が認められた。