| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W07-2  (Workshop)

多年生草本植物における遺伝的多様性の時間変化:遺伝解析と理論的導出
Temporal dynamics of genetic diversity in stage-structured perennial herbs: Genetic analysis and theoretical derivation

*都築洋一(北海道大学), 佐藤光彦(かずさDNA研究所), 松尾歩(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 高田壮則(北海道大学), 大原雅(北海道大学)
*Yoichi TSUZUKI(Hokkaido Univ.), Mitsuhiko P SATO(Kazusa DNA Res. Inst.), Ayumi MATSUO(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Takenori TAKADA(Hokkaido Univ.), Masashi OHARA(Hokkaido Univ.)

遺伝的多様性は環境変化への適応に寄与することから、生物集団の存続可能性の指標として用いられている。したがって、集団の長期的な存続可能性を評価する上で遺伝的多様性の将来予測は重要である。本研究では、北海道十勝地方に生育する多年生草本植物オオバナノエンレイソウを対象に、遺伝的多様性の時間変化を予測するとともに、遺伝的多様性の維持に寄与する要因を探索した。まず集団サイズの異なる2集団(大集団・小集団)を対象にMIG-seq法を用いて、集団を構成する複数の生育段階(例:開花段階, 実生段階)の間で遺伝的多様性を比較した。その結果、小集団の方では、成熟した開花段階に比べて若い実生段階の多様性が低いことがわかり、世代交代が進むにつれて遺伝的多様性が減少していく可能性が示唆された。この可能性を検証するために、大集団・小集団の期待ヘテロ接合度の年次変化をシミュレーションした。シミュレーションには、生活史のサイクルに沿って個体が成長・繁殖して世代交代していく過程を記述できる「個体群行列モデル」を用いた。その結果、小集団の方で遺伝的多様性がより速く減少することが確かめられた。続いて、個体群行列モデルのパラメーター(各生育段階の生存率や繁殖率)をランダムに500通り変えて、それぞれの場合で期待ヘテロ接合度の年次変化をシミュレーションした。その結果、幼若段階における滞留率(翌年も同じ生育段階に留まる確率)が高い場合に、期待ヘテロ接合度が比較的高く維持されることがわかった。また、将来世代の遺伝子プールへの貢献度を表す「繁殖価」を滞留過程の個体について調べたところ、成長・繁殖過程の個体と比べて高かった。よって、滞留している個体の遺伝子は将来世代に残りやすいことが分かった。以上より、生活史過程で生じる滞留が、遺伝的に異なる様々な個体を同じ生育段階に留めることが、遺伝的多様性の維持に寄与している可能性が示唆された。


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