| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W08-2 (Workshop)
沖縄島にはかつて在来のミナミメダカが広く生息していたが、1960年代にボウフラ対策で導入された北米原産の外来魚カダヤシに次々と置換された。ところが1970年代以降、今度は観賞用として導入後に野生化した中南米産の外来魚グッピーにカダヤシが取って代わられた。グッピーとカダヤシの雌の外見が酷似していることから、配偶相手の誤認による種間配偶行動が適応度低下を引き起こす「繁殖干渉」がグッピーによるカダヤシの駆逐の要因の一つであるという仮説を検証した。
沖縄島全域にわたる50地点で捕獲調査を行なったところ、カダヤシはグッピーが不在または少ない地点に限り生息しており、両者の分布は強い排除傾向を示した。グッピーとカダヤシの雄の配偶者認識について行動観察したところ、いずれも配偶者認識が不完全で異種メスに対し配偶関連行動をとったことから、2種の間に繁殖干渉がはたらいた可能性が示唆された。いずれの雄も概ね異種雌よりも同種雌に対して相対的に高い選好性を示したが、グッピーの雄が強制交尾を行なう際、捕食リスク等の相対的に高いコストを伴う求愛ディスプレイを行なう時に比べて配偶者認識の精度が低下した。飼育実験の結果、グッピー雄と同居させたカダヤシ雌が産む稚魚数は同種のみで飼育した場合に比べ減少したが、カダヤシ雄と同居させたグッピー雌が産む稚魚数は同種のみで飼育した場合と有意に異ならなかった。これらの結果から、カダヤシはグッピーから一方的に繁殖干渉を受けていると考えられた。繁殖干渉を生じさせる至近要因の解明が今後の課題であるが、飼育期間中のカダヤシ雌の体重増加量はグッピー雄との同居の有無に無関係であったことから、カダヤシ雌の出産稚魚数の減少はグッピー雄からの執拗な求愛等によるものではないと考えられた。今後、特にグッピーの雌がカダヤシの雄から繁殖干渉を受けにくいメカニズムの解明に注目し研究を展開していく。