| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W08-3 (Workshop)
雌雄の交尾器形態の共進化・多様化が,交尾後に生じる性淘汰や性的対立によって駆動されることは,多くの例で実証されつつある.また,種間相互作用による交尾器形態の進化は,ダーウィン以前から錠と鍵仮説として認知されており,種間の繁殖干渉による淘汰が,雌雄交尾器形態の分化をもたらしたであろういくつかの例が知られている.種内の性的対立や種間の繁殖干渉による雌の繁殖率の低下は,個体群のサイズを減少させ,絶滅確率を高める可能性がある.一方,雌の繁殖率の低下を防ぐような雌雄の形質が進化することがあれば,個体群の絶滅確率は低下するだろう.しかし,このような生態–進化ダイナミクスが,交尾器形態の進化・多様化におよぼす影響は,あまり注目されていない.
雌雄の交尾器が錠と鍵的に対応するアオオサムシでは,雄の長い交尾片は雌の産卵活性を高め,未受精卵を産ませることで雌の繁殖率を低下させるが,雌の長い膣盲嚢はそのような雄の操作を回避しやすい.このような雌雄交尾器のサイズに依存した性的対立は,個体群サイズに影響することがわかっている.加えて,アオオサムシは近縁種のシズオカオサムシと分布を接し,そのような個体群は種間交尾による繁殖干渉を受ける.アオオサムシの分布域を網羅する33個体群1271個体の交尾器サイズを測定したところ,性的対立と繁殖干渉を共に受けると考えられる分布境界域の個体群では,雄の交尾片は短く,アロメトリーの傾きがほぼ0となるような,雌にコストをかけにくい雄交尾器になっていた.一方,そのような個体群では,雌の膣盲嚢は長くなり,雄からのハラスメントを受けにくい雌交尾器になっていた.このような,分布境界域における「雌の繁殖率が低下しにくく絶滅しにくい」雌雄交尾器の進化には,種間交雑による遺伝子流動や個体群内で作用する淘汰に加えて,個体群の移入・定着と絶滅からなる過程が関与しているかも知れない.