| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W09-4 (Workshop)
地球上に存在する生物の多様性を生み出す源は、ゲノム上に生じる突然変異である。動物と異なり、樹木のような多年生植物では頂端分裂組織の幹細胞に生じた突然変異が生長過程で個体内に広がり、繁殖を通して次世代に伝わるため、このような変異は集団の遺伝的多様性を生み出すことにつながる。特に、長寿命の植物では1世代あたり多くの突然変異が蓄積すると考えられ、分岐した枝ごとに独立に変異が蓄積し、異なる遺伝子型を持つと考えられる。同一個体内の枝間でどれほど変異が共有され、生長とともに受け継がれているかは不明であり、さらに、個体内に生じ、広がってゆく幹細胞突然変異に自然選択が生ずるか否かも明らかになっていない。そこで本研究では、400年を超える寿命を持つ熱帯性の木本Shorea laevisを用いて幹細胞突然変異を検出し、個体内の蓄積パターンと自然選択の有無を解析した。
インドネシア、ボルネオ島で採取した樹齢410年のS. laevisからDNAを抽出し、ロングリードシークエンスを行い、リファレンスゲノムを構築した。このゲノムデータを元に発生時期の異なる8枝についてショートリードシーケンスデータを用いた多型解析を行い、746個のSNVを検出した。これらの変異のおよそ半分は紫外線によって生じるタイプであった。これらのSNVの分布を樹形と枝間の物理的な長さに基づき解析したところ、幹細胞突然変異率はおよそ1.29x10-9 /塩基/年と推定された。また、枝間の遺伝的距離は物理的距離に従って線形に増加しており、細胞分裂に従って一定速度で変異が蓄積していることが示唆された。さらに、遺伝子領域上に見つかったSNPsは全体の約10%で、ゲノム中の遺伝子領域の比率10.6%とほぼ一致した事から、個体内に蓄積した幹細胞突然変異は正負いずれの自然選択も受けていないことが示唆された。