| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W10-4 (Workshop)
陸上生態系において、一次生産の大部分は地上部(生食連鎖)の動物に利用されることなく、地下部(腐植連鎖)の動物や土壌微生物によって分解される。分解によって生じた栄養塩は生産者によって利用される。また、生食連鎖と腐植連鎖は、一次生産や栄養塩のやりとりだけではなく、腐植連鎖に属する動物が、生食連鎖の動物に食物資源として利用されることによっても結びついていると考えられている。しかし、陸上生態系で大きな現存量や高い多様性を持つ無脊椎動物についてはその食性がよくわかっておらず、腐植食物連鎖での働きや、生食連鎖の動物がどの程度腐植連鎖に依存しているのかなどについては十分に理解がされていない。無脊椎動物の食性解析に関して、過去20年間に同位体自然存在比を用いた研究が広く行われている。さらに近年では食物連鎖の炭素の流れの速度を表すトレーサーとして放射性炭素が利用されている。大気二酸化炭素の放射性炭素濃度は、冷戦期の大気圏核実験によって増加した後、1963年の核実験禁止条約以降、海洋や生物圏によって取り込まれて急速に減少している。このパタンは当年の光合成産物にも反映されているため、ある動物の放射性炭素濃度と既知の大気二酸化炭素の放射性炭素濃度を比較することで、その動物が何年前の光合成産物を食物資源として利用しているか、その時間を食物年齢として推定することが可能である。本講演では、放射性炭素同位体を用いた食物年齢に関する研究結果を紹介する。特に無脊椎動物の食物年齢の特徴や、気候帯や植生の違い、生態系遷移によって食物年齢がどのように変化するのかを説明する。そして、食物年齢を規定している要因や温暖化、土地利用の変化等の環境変化に対する陸上無脊椎動物の応答について議論したい。