| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W12-1 (Workshop)
新興感染症の75%は人獣共通感染症であるが、そのうち28%は媒介生物を介して人に感染する。これらの病原体は野生動物と媒介生物の間で維持され、温帯地域ではマダニが主要な媒介生物となっている。マダニは哺乳類や鳥類など幅広い宿主に寄生するため、マダニが利用する宿主動物の解明は、マダニ媒介感染症対策を検討する際の基礎情報として不可欠である。マダニの生息調査は主に家畜管理の観点から行われ、宿主動物が散発的に報告されてきた。しかし日本紅斑熱や重症熱性血小板減少症候群(SFTS)をはじめとするマダニ媒介感染症が各地で確認されて以降、感染症の発生リスク評価の観点からも重要視されるようになった。しかし、都道府県単位など特定の地域における限られた期間の報告が多く、長期間にわたり全国的なスケールでマダニ種の宿主嗜好性を議論した研究は少ない。そこで本研究では学術論文や都道府県の衛生試験場の研究報告などを収集し、371件の文献からマダニの宿主動物情報を得た。宿主動物に寄生していたマダニ種と宿主の関係を分析した。その結果、ペット動物であるイヌやネコのほか、ヒトの刺咬害の情報が多かった。特に、キチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニは、イヌやヒトから共通して報告されていた。これは、同様の環境を利用していることが反映されていると考えられる。さらに、近年分布拡大が示唆される大型哺乳類のニホンジカとイノシシについては、1960年から2020年の情報を比較するとキチマダニなどチマダニ属が多かった。ニホンジカでは全国的にオオトゲチマダニが多い一方、関東以西のイノシシではタカサゴキララマダニが多く、マダニ種の組成が明確に異なっていた。宿主動物によってマダニの種構成が異なることが示唆され、このことは、感染症対策として重点的に管理する宿主動物を検討する上で重要な基礎情報であると考えられる。