| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W12-2 (Workshop)
近年、新たな感染症が世界中で発生し、社会に対する大きな脅威となっている。それら新興感染症の多くが野生動物に由来する事から、感染環の理解や感染リスクの低減のためには、医学や獣医学だけではなく、生態学的視点からのアプローチが必要である。とりわけ重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や日本紅斑熱といったマダニ媒介感染症は、多様な野生動物が宿主として関係するため、その理解や対策において生態学的なアプローチが期待される。本研究では、マダニの季節消長及び、マダニと野生動物、景観との関係について明らかにし、マダニ媒介感染症リスクの生態学的背景の解明を目指した。SFTS等発生地域において15地点の調査地を設定し、以下の調査を行った。野生動物相については、2018年4月-2019年5月に自動撮影カメラを設置し、生息状況を評価した。マダニ相については、各調査地に100mの調査ラインを設定し、2020年9月-2021年8月にかけて、月に1度旗ずり法による採集を行った。景観については環境省の植生図から情報を得た。それらの情報を基に、マダニと野生動物の群集構造、及び景観との関係を冗長性分析で検討した。その結果、マダニの季節消長やマダニと野生動物との関係、及びマダニと景観との関係は、マダニの種間、及び成長段階(若虫、成虫)で異なることが示唆された。これは、マダニ各種及びそれらの成長段階によって、発生時期や宿主の選好性、脱皮・産卵に適する微環境等が異なる事を示している可能性がある。今後は、微環境の温湿度等やネズミ類の生息状況、病原体の保有状況等も併せて評価することで、感染リスクの生態学的背景をより詳細に理解出来ると考えられる。