| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W12-3 (Workshop)
マダニは野生動物を宿主として吸血するが、種や発育期によって宿主対象となる動物には違いがある。このため各動物種におけるマダニの寄生状況は異なる。しかし、こうしたマダニの寄生状況の差はマダニの宿主特異性が唯一の決定要因ではないことを示す例が知られている。グルーミングを行うことで体表上に咬着するマダニなどの寄生虫を除去する行動はその一例で、北米に生息するキタオボッサムがライム病を運ぶIxodes scapularisを摂食し、マダニを減らす効果があることが知られている。
本例では類似した生態学的特徴を持つアライグマとハクビシンに寄生するマダニに注目して、マダニ寄生状況を比較した例を紹介する。同地域で捕獲されたアライグマ60頭から6種のマダニが18,509体、ハクビシン41頭からは2種のマダニが152体採取された。両者ともHaemaphysalis flavaが優占したが、マダニの寄生量はアライグマで有意に多かった。同時にグルーミングによって除去されたマダニ量を評価するために、消化管内要物にマダニが含まれるかを調査したところ、アライグマからは16体、ハクビシンからは106体のチマダニ属が見つかり、ハクビシンは有意に多くのマダニを摂食していたことが明らかになった。このことから、ハクビシンはキタオポッサムと同様にマダニを食べて減らす役割を持ち、マダニは寄生しても生存できないEcological Trapであり、反対にアライグマはマダニの繁殖や成長、分散に吸血源となって寄与するEcological Boosterともいえる役割を持つと考えられた。
マダニの摂食例は様々な地域で報告例があり、マダニが動物に摂食されることで感染環を成立させる寄生虫も存在することから、自然界では決して珍しい現象ではないとも考えられる。しかし、本例では同所的に生息する2種の外来種がマダニに対して正反対の役割を持ち、アライグマによって病原体を媒介するマダニは運ばれやすいと考えられ、感染症対策の観点からも重要視されるべき生態学的関係であると考えられる。