| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W13-2  (Workshop)

学生フィールドワーカーからみた統計生態学(者)
Ecological statistic(ian)s for a student fieldworker

*矢島豪太(日大・生物資源)
*Gota YAJIMA(Nihon Univ.)

 階層モデリングは簡単な確率モデルを組み合わせることで,複雑なデータの生成過程を生態プロセスと観測プロセスに明示的に分離して表現できる.しかし,フィールドワーカがその有用性を十分に理解し,使いこなすのは難しい.そこで本講演では,発表者のこれまでの経験を踏まえて,階層モデリングをフィールドワーカが身に付けることの難しさと解決策を紹介する.発表者は,自動撮影カメラを使った地上性動物の集団サイズ(単位集団内の個体数)推定モデルの確立に取り組んでいる.自動撮影カメラは撮影できる面積の狭さから,観測プロセスの制約を強く受ける.したがって,データの背後にある未知のパラメータ(この場合,真の集団サイズ)を簡単に推定することができない.具体的には,生態プロセスとしては,カメラ設置点を行動圏の一部として含む集団の数とその集団サイズを同時にモデル化する必要がある.観測プロセスでは,各集団が何回撮影されたか(個体識別できない種を対象にしているためデータからはわからない)をモデル化した上で,集団内の個体の不完全な検出をモデル化しなければならない.この困難を乗り越えるために,発表者は自分なりに様々な試行錯誤をおこなった.とくに,Rの関数を利用して確率分布から乱数を発生させ,フィールドで何が起きているかを想像することを心がけた.また,想定されるモデルは尤度関数の定式化が煩雑になるため,広く利用されているMCMC法 によるパラメータの推定は初学者には困難に見えた.そこで,シミレーションベースでパラメータを推定する近似ベイズ計算によってパラメータの推定を試みた.このような試行錯誤を行ううちに,さまざまな知識が身につき,最終的に尤度ベースの推定手法も確立できた.このように,統計学を専門としないフィールドワーカであっても,数値実験を重ねることで,モデリングに必要な知識を感覚的に理解できるのではないかと思う.


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