| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
自由集会 W16-1 (Workshop)
農地・農業水利施設等の整備にあたって環境との調和に配慮する際の参考資料に,農林水産省農村振興局整備部監修(2015)の「環境との調和に配慮した事業実施のための調査計画・設計の技術指針」がある.この指針には,事業関係者が「注目すべき生物」を選定する際に,1)生態系の指標性(上位性,希少性など),2)地域住民との関係,3)監視すべき生物(特定外来生物等)の3つの考え方が提示されている.これらのうち,少なくとも1)は農生態系の「構造」に,2)は「機能」にそれぞれ着目しているといえる.環境との調和に一定の効果を示した水田魚道をはじめて導入した栃木県西鬼怒川地区では,注目すべき生物を,当時は普通種であったドジョウやフナ類とした.この地域は,かつて45種類もの漁法が存在し(加藤ら1999),地域住民は捕る,食べる,愛でるなどの農生態系における機能をみていたから,上位性や希少性などの構造よりも,漁の主な対象種,すなわち機能を重視することが保全意識の醸成には有効だった.機能を前面に押し出しつつ,水田魚道の設置が一時的水域を利用する他のギルド種を保全することで構造に配慮するという戦略をとったのである.本報告では,まず,このような機能を重視した保全意識の醸成を図る取組みについて,岩手県内における2つの地域の事例を紹介する.いずれの地域もタナゴとその産卵基質である淡水二枚貝類を主な対象として構造に配慮しているが,これらの持つ機能については地域によって異なっていた.一方で,人口減少に伴って,農生態系の機能の維持が困難となっている地域が増えつつある.そこで次に,青森県の事例として,機能低下後の荒廃化進行がドジョウやトンボ類の生息分布に与える影響について農業依存種として考察したので報告する.