| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W16-2  (Workshop)

生産力と持続性の両立で期待される農業生物多様性がもたらす諸機能とその適用事例
Expected functions to achieve both of productivity and sustainability brought about by agro-biodiversity

*嶺田拓也(農研機構 農村工学研)
*Takuya MINETA(NARO)

「食料・農業・農村基本法」(1999年)では,食料の安定供給の確保に加え,その生産活動を通じて,国土の保全,水資源の涵養,自然環境や良好な景観の形成などの多面的機能の発揮を求めているが,農業は生物多様性を含めた資源の利活用を基本とした営みであり,その基盤も含めて持続可能性が担保されなければならない。OECDでは,持続可能性が「目標に着目」したものであるのに対し,多面的機能は生産プロセス及び派生する複数の生産物に関する特定の性質の「発揮」に着目した概念であり,持続性という目標に対し,多面的な特性が発揮しうるためには規範的な側面を有するとしている。規範的とは,二次的な自然において環境と調和しつつ,持続的な生産を可能とする適切な生産活動を意味する。例えば,自然環境に対する合理的な攪乱環境下に成立する水田の二次的な生物群集の持続的な保全を考えるとき,稲作に伴う水管理などの生産プロセスにおいて発揮させうるか,直接の生産プロセスには関わらない「ビオトープ」などを空間的に配置することによって発揮しうるか整理が必要である。ここでは,有機農業において生産力も持続させつつ,農業生物多様性を生産プロセスや時空間的な配置によって発揮させようとする取組として,水田の冬期湛水と畑地における草生利用のマルチングの事例を紹介する。とくに農業生物多様性として農地内の雑草植生に着目して,冬期湛水田における水稲の生産性に及ぼす雑草の影響,また草生マルチの利用における作物との競合を避ける空間的な配置や工夫について述べたい。これらの事例から,農地内で見られる雑草植生の多様性が担保されつつ,生産力を維持しうる規範的な生産活動のあり方に向けて雑草植生の機能と時空間的な配置におけるフレームワークを示したい。


日本生態学会