| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


自由集会 W16-4  (Workshop)

TEKで総合化する農生態系の構造と機能の創発 ‐持続的な食農システム試論‐
Emergent quality of the structure and function of agro-biodiversity integrated trough TEK ‐ sustainable food-agriculture system ‐

*日鷹一雅(愛媛大学大学院農学)
*kazumasa HITAKA(Ehime Uuniv. Agronomy)

本集会の総括として生態学における構造と機能をまず基本とし、農生態系の在り方について、振り返りながら考察する。構造と機能の理論を生態学に導入したのは、Odum(1963)で、その前にElton(1958)は農業の食物連鎖の構造上の問題点を鋭く説いた。その後、Pimentel ら(1973)は、農業・食料システムのエネルギー収支解析を進め、持続的な食農についての議論を引き起こした。米国ではオダムやピメンテルをして「アグロエコロジーの父」と呼び、農生態系の構造と機能のあり方論は、私たちの一主題である。日本でも同様の解析は、多様な栽培システムを題材に、群集の構造と機能との関連で研究され(高橋 1989; 日鷹 1990; 2000)、農業現場でも福岡(1976)は自らの自然農法の収支を試算し、持続的農業の方向性を指南した。また日本は、米国農業のように大平原における開拓史的で時・空間的に単純構造の農生態系とは異にする。日本列島の複雑多岐な地形は、γ-多様性を高め、その上に多様な食農文化に育み、さらに永年の定住社会で培ったβ-多様性の地域農業を土台とした農村集落を発達させた。このような各地域の在来知を礎に、水稲作だけに留まらない多様な作付体系や農法ならびに暮らしの資源利用形態のα-多様性で、里山・里海・里川のような農景観を維持してきた。このような豊かな多様性の農生態系も、高度成長期以降の農村・農業離れで衰退し、今や里山崩壊が頻発している。歴史的に顧みると、大変貌させた政策的駆動因は、1960年の農業基本法辺りからであり、自給率は低下し、食農シンドローム(Andow & Hidaka, 1989)と外来種が蔓延して行った。未来は、多様な在来知を生態学的に吟味してレジリエントに進化させる方向で、Traditional Ecological Knowledgeで最適に総合化し、持続的な食農ありきの農生物多様性のように、多様な景観の構造と機能を創発的に組み合わせるのがよいだろう。目指すは、スマートなTEKの持続的食農システム論を構想、計画、行動することにある。


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