| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-12 (Poster presentation)
色覚とは同じ明度・彩度における色相を見分ける能力のことを指す。これまで昆虫種において、ミツバチは赤を識別できない一方でナミアゲハは識別できることが明らかになっている。また、チョウは種によって多彩な色の花に訪れることから、私たちはナミアゲハ以外の他種のチョウがどのような色覚を持っているのか興味を抱いた。
年間通してチョウの色覚について調べるために、主に熱帯に生息するチョウが6種類放し飼いされた石川県ふれあい昆虫館内の温室で行動観察した。その結果、オオゴマダラ、リュウキュウアサギマダラ、シロオビアゲハの順で訪花行動が多く観察できることが分かった。また、それら3種がどの種の何色の花に訪れているかといった花のパターン数を調べると、オオゴマダラが単独で訪花している花のパターン数が最も多く、特に桃色のカランコエに多く訪れる傾向が見られた。その事実に着目し、本研究ではオオゴマダラの色覚による選好性の生物学的意義を洞察することを最終的な目標とした。
まず、他種のチョウや植物を取り除いた環境下でもオオゴマダラは温室同様の行動を示すのか検証するために、赤・黄・桃・橙4色のカランコエを網室内に設置し、オオゴマダラの行動を観察した。その結果、桃のカランコエに顕著に訪花した。
次にカランコエと同色の色紙選択実験を行った。その結果、オオゴマダラは赤と桃に多く訪れることが分かった。
実験に用いた色紙のスペクトルを測定すると、赤と桃両方に赤色光が含まれていたことから、ナミアゲハ同様にオオゴマダラも赤を識別して訪花していると考えられる。また、実験に用いた個体は羽化して間もないことから、赤系統への訪花行動は生得的行動と考えられる。今のところ、オオゴマダラの主な生息地である沖縄は赤色の花が多く、その環境に適応した行動ではないかと考えている。
今後は桃には青色光も含まれていたことから、青も識別できるのかどうか検証したい。