| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-24 (Poster presentation)
近年、地球温暖化や水質汚染などの影響によって海に生息している魚類の数は減少傾向にあるため、魚類を人工的に繁殖させることは必要であると考えられる。しかし、魚類の中には雌雄が途中で変化するものも多く、見た目では雌雄を判別できない種も多く存在する。本研究では、採血で雌雄を判別する指標を確立し、ベラ科の近縁種を用いた性転換に与える影響や体内外の変化を明らかにすることで、生物を殺さず、効率的な繁殖を促す環境を作ることを目的とする。
本研究ではベラ科に属するキュウセンとニシキベラの2種を対象魚とする。両種ともに雌から雄に性転換をする雌性先熟の魚類である。キュウセンは体色による雌雄判別が可能であるが、ニシキベラは体色に雌雄差がないことが特徴である。対象魚を神奈川県の福浦岸壁、江の島にて採集し、体長、体重、体色と採血による血球量・血球種の測定を行い、雌雄・体長に分けて比較した。また、両種ともに解剖を行い、生殖器の状態も観察した。
キュウセンでは成長段階によって性転換が起こり、小さな個体(14cm以下)は雌、大きな個体(16cm以上)は雄となった。一方で、ニシキベラでは成長段階に関係なく、どの体長の個体にも雌と雄が存在することが分かった。キュウセンにおける血球量の比較では、雌から中間において血球量が変化しなかったのに対し、中間から雄では血球量が著しく増加した。これは性転換する際に、雄性ホルモンが増加し、血球量の増加につながったと考えている。一方、ニシキベラの雄では体長が増加しても血球量は増加しなかった。これは性転換が早く終了したことで、性ホルモンが安定した状態にあったことが要因であると示唆された。しかし、雌では体長の増加に伴い、血球量は減少する傾向にあった。これは雌性ホルモンが血球量の増加を促進させるが、大型の個体では1gあたりの雌性ホルモン量が減少し、血球量の減少につながったと考えている。