| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-30 (Poster presentation)
揖斐川・長良川は,ともに岐阜県の山地から濃尾平野を抜け,伊勢湾へと流れる隣接した大河川であり,水質及び流域の面積や気候が似ているため,魚類相にも大きな違いは見られない。しかし,オオサンショウウオ・タニガワナマズに限っては,西日本から分布を広げてきたにもかかわらず,揖斐川には生息しておらず,より東を流れる長良川には生息している。そこで,両種が揖斐川に生息していない理由について,揖斐川の地形発達史や地質学的要因が関わっていると仮説を立て,河川の傾斜や河成段丘,岩石の分布をもとに,過去から現在までの揖斐川・長良川の河川状況と周辺の地質を調べ,比較した。
まず,揖斐川・長良川の,流速や流量に影響を与える傾斜に大きな違いがみられるのではないかと考え,オオサンショウウオが生息する長良川・木曽川・桂川・猪名川・太田川と揖斐川の傾斜の比較を行った。しかし,揖斐川・長良川間の傾斜に有意差は見られず,揖斐川よりも急な猪名川と緩やかな木曽川にオオサンショウウオが生息しているため,現在の傾斜は両種の生息の有無には関係しないと考えられた。
次に,GSI国土地理院地図を用いて,揖斐川と長良川の,後期更新世(両種の分布域の拡大が最も活発な時期)当時の河川規模と発達の時期を,後期更新世に形成された段丘の面積や後期更新世に形成された段丘とそれ以前に形成された段丘の標高差から推測した。その結果,揖斐川は,長良川に比べ,両種が分布域を拡大した時代に未発達で不安定な河川であったという河川発達の時期の違いがみられることが分かった。
また,シームレス地質図を用いて,揖斐川・長良川流域に分布する岩石の種類を調査した結果,揖斐川では両種の生息巣穴となりうる中上流部の天然の横穴が,花崗岩が風化してできた真砂土などの流入によって埋没しやすくなっていることを発見した。