| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-42 (Poster presentation)
ニハイチュウ(二胚動物門)は、底生頭足類の腎臓に片利共生する体長数mmの多細胞動物である。蠕虫型個体と滴虫型幼生の2タイプがあり、蠕虫型個体が腎嚢に接着する頭部(極帽)の形は腎嚢表面の凹凸によってさまざまに異なる。どのように極帽の形を変えるのか解明されていない。生殖場所で異なるニハイチュウの蠕虫型個体について、極帽を構成する前極細胞と後極細胞がどのように、極帽形態に違いを生じるのか、形成過程を明らかにすることを目的に研究を行った。
ミサキニハイチュウ(極帽が円錐形)、マッコナギーニハイチュウ(円錐形)、ヌベルニハイチュウ(円錐形)、アオリイカニハイチュウ(円盤形)、ヤマトニハイチュウ(円盤形と帽子形の中間型)の5種類と今回発見した新種のツネキニハイチュウ(円盤形)の合計6種類について、顕微鏡下でミズダコやクモダコ、マダコ、アオリイカの腎嚢を開き、腎嚢表面をスライドガラスでこすりとるようにして付着させ、プレパラートを作成した。各50個体収集し、極帽を観察した。
観察したすべてのニハイチュウは、小さいときには極帽がすべて円錐形であるが、成長するにつれて種ごとに極帽の形状に個性がみられるようになる。極帽が円錐形の種は、宿主に関わらず腎嚢の窪みに接着し、極帽が成長しても変形せずに円錐形を保つ。一方極帽が円盤形のものや一部帽子形様のものは、成長しても極帽は成長しないか途中で成長が止まり、極帽の形を円盤形に変形させる。蠕虫型ニハイチュウの極帽はもともとすべて同じ円錐形であるが、イカやタコの腎嚢表面の窪みや平らな部分の形状に対応して、成長とともに極帽の形状を適応させ異なる種へと分化する。何かの刺激が引き金になって隠れていた形質が出現するのではないかと考えられる。