| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-57 (Poster presentation)
私たちは 2018 年から、タイリクバラタナゴという淡水魚を材料とし、研究を行ってきた。本種の雄は縄張りを持ち、他のオスが縄張りに侵入した際には攻撃や追跡を行い、雌に対しても求愛行動として追跡を行う。タナゴ類ではこういった行動を相手がとった場合、すべての鰭をたたんで静止する「従属姿勢」をとる(北村,2020)。2019 年に行った実験で、タイリクバラタナゴを赤色で囲った容器に入れると体を倒す行動をとることを発見した。本研究では体を倒す行動は繁殖行動に関係していると仮説を立て、この行動をとる理由を明らかにすることを目的とした。今回行った実験の内容について以下に記す。 条件の異なる飼育水槽を用意し、各色(赤・青・緑)のプレートで囲った容器の中にそれぞれの個体を1匹ずつ入れ、90 秒間動画を撮影し観察を行った。赤色プレートを用いた実験から、繁殖するための刺激を取り除いた個体よりも、繁殖できる飼育条件下においた個体の方が長く体を倒し、オスの方が体を倒す個体数が多いという結果が得られた。一方、未成魚では体を倒す行動は全く見られなかった。次に各色の実験結果を比較したところ、雌雄ともに青色・緑色では、体を倒す行動はほとんど見られなかった。以上のことから次のように考察した。タイリクバラタナゴが体を倒す際、従属姿勢特有の、鰭をたたむ行動が見られた。赤色は本種の雄の婚姻色であり、他個体への威圧の効果を有すると考えられる。そのため赤色で囲われたタイリクバラタナゴは他個体が攻撃や威嚇したと認識し、従属姿勢をとった可能性がある。従属姿勢を誘発する刺激は、他個体に攻撃された際の接触や水流など物理的な刺激なども考えられるが、今回の結果から色はその誘発に相当大きな影響力を持っていると言える。これらのことから、赤色に対して体を倒す行動は、他個体に攻撃などをされた際にダメージを軽減するための従属姿勢であると結論を立てた。