| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PH-60 (Poster presentation)
ハッチョウトンボは、静岡県では絶滅危惧種ⅠB類に指定されており、早急な保全が求められている。本研究では、ハッチョウトンボだけでなく、他種のトンボ類やクモ類さらに希少な植物などの種間相互作用も考慮した湿地生態系保全計画の立案につなげることを目標とする。本研究では、3つの調査を行った。1つめは、360度カメラによる調査で、軟弱な地盤環境を踏み荒らさずに、至近距離からハッチョウトンボを詳細に観察することを目指す。2つめは、直接観察法によるハッチョウトンボを中心としたトンボ類の利用環境を解明し、生息場所である湿地の保全活動に活用することを目的として行った。3つめは、トンボ類とクモ類の種間相互作用を明らかにするために行った。360度カメラ(Arashi Vision社製:Insta360 X2)を用いてハッチョウトンボの撮影を試みたが、撮影距離を1mまで近づけても画像からハッチョウトンボの姿を識別できなかった。Iδ指数は、ハッチョウトンボが6.7、オシオカラトンボが2.3で、ともに1よりも大きく集中分布を示した。トンボ類2種ともに集中分布の傾向が強く、特にハッチョウトンボは低茎草本がまばらに生えている宮口湿地中央部において集中分布している傾向が強かった。ハッチョウトンボは、草丈が低い草本の葉先端に静止しているのが観察され、クモ類の集中分布域を避けて、同所で長時間静止し続ける傾向があった。そのため、ハッチョウトンボが最小限の移動しかしない特徴は、クモ類によって捕食される危険性を軽減するのに役立つかもしれない。本研究により、ハッチョウトンボと他種のトンボ類および捕食者であるクモ類が相互に及ぼし合う影響の一端が明らかになった。ハッチョウトンボだけでなく、他種のトンボ類や捕食者であるクモ類さらに希少な短茎草本および長茎草本などの種間相互作用も考慮することで、湿地生態系保全計画を立案できた。