| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S01-2  (Presentation in Symposium)

生物多様性トレンドの回復に向けた生態学の課題
Challenges of ecological science for bending the biodiversity-trend curve to positive

*角谷拓(国立環境研究所)
*Taku KADOYA(NIES)

 生物多様性条約COP15またそれを受けた新生物多様性国家戦略において、ネイチャーポジティブ:自然を回復軌道に乗せるため、生物多様性の損失を止め、反転させることが社会全体の目標として位置づけられた。この目標の実現とそこに至る進捗・到達度評価のためには、生物多様性の時間変化を正しく捉える必要がある。生物多様性の時間変化の把握には、潜在的な生息適地の広がり、生物量・個体数、絶滅リスクなどが指標として用いられる。中でも、生物量・個体数は、環境変化や保全管理などの介入に対して感度が高いこと、直接保全のターゲットとなるプロパティであること、遺伝的多様性の維持の基盤になること、また、生態系サービスや生態系機能と直接的な関連を持つことなどから、生物多様性の時間変化を捉える上では最も重要な指標の一つである。一方で、生物量・個体数の観測・モニタリングには、標本情報などを含む一時的な観測情報よりもコストがかかるため、観測やデータ収集・統合の体制の整備に遅れがあること、また、近年急速に実用化が進んだオカレンス情報にもとづく生物の空間分布のモデル化に比して、生物量の時間変化を適切にモデル化し統合的な指標を算出するための枠組みの開発が不十分であるなど、実装にあたってのギャップが存在する。本講演では、これらの課題に対して生態学が果たすことのできる役割について議論する。


日本生態学会