| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S01-4  (Presentation in Symposium)

土地利用がもつ多様な機能の経営と生物多様性国家戦略
Managing the multifunctionality of land use in the context of the National Biodiversity Strategy and Action Plans

*吉田丈人(地球研・東京大)
*Takehito YOSHIDA(RIHN & UTokyo)

土地がどのように利用・保全・管理されるかが、生態系と生物多様性の構造・動態や機能と密接に関係することは、生態学が蓄積してきた科学知の一つである。土地利用は、地域の暮らしや社会・経済とも深く関わっている。生態系と生物多様性にとって土地利用が脅威となるだけでなく、土地利用によって多様な自然の恵み(生態系サービス)がもたらされる。また、土地利用の履歴効果は大きく、土地利用の歴史は現在と将来に強く影響する。
 このような土地利用は、次期の生物多様性国家戦略においても大きな役割を持つ。土地利用は、生態系の劣化と生物多様性の損失をもたらす主要な直接要因の一つであり、オーバーユースとアンダーユースの両方の緩和が求められている。また、より積極的に、気候変動に対する緩和策・適応策や地域の伝統文化を支える役割として、土地利用の工夫による自然を活用した解決策の実装が目指されている。土地利用の影響やそれがもたらす機能は多様であり、多角的な視点で土地利用をとらえる必要がある。しかし、土地利用がもつ多機能性の情報を一元的に得ることはいまなお困難である。
 この課題を解決する一助として、総合地球環境学研究所Eco-DRRプロジェクトでは、J-ADRES(自然の恵みと災いからとらえる土地利用総合評価)を公表した。J-ADRESでは、市区町村の自治体ごとの土地利用が災害リスクと生態系サービスにどう関係しているかを評価し、地図などにより可視化している。
 土地利用の多機能性は、それにともなう利害関係が複雑であることを意味する。次期の生物多様性国家戦略で掲げられた多くの重要な目標を達成するには、土地利用の多機能性をどう地域づくりに活かしていくかという、土地利用の経営の視点が求められるだろう。そのとき生態学が果たせる役割は、生態系・生物多様性と土地利用との関わりをこれまで以上に深く広く研究し、社会に発信していくことだと考える。


日本生態学会