| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S07-1  (Presentation in Symposium)

企画趣旨:全ての種の遺伝的多様性の保全に向けて
Background of the symposium "Toward the genetic diversity conservation of ALL species"

*石濱史子(国立環境研究所)
*Fumiko ISHIHAMA(NIES)

遺伝的多様性は、生態系の多様性、種の多様性に並ぶ3つの生物多様性の要素の1つであるが、その保全の取り組みは種の多様性に比して大きく遅れてきた。その理由としては、遺伝的多様性の評価には遺伝解析実験が必要であるという観測の困難さや、遺伝的多様性は集団内・集団間という階層性を持ち、概念的に複雑であることが挙げられる。
 遺伝的多様性の保全はますます必要とされる状況にある。人間活動よって引き起こされた生息地縮小に伴い、普通種を含めた多くの種の遺伝的多様性の低下が懸念される。また、外来種や異なる地域の個体の人為的持ち込みに起因する交雑が地域の遺伝的多様性の損失を引き起こしている。遺伝的多様性の損失が強く懸念される一方で、起こりつつある気候変動への進化的適応の基盤として、遺伝的多様性の重要性が増している。
 昨年12月に採択された生物多様性条約の新たな目標である、昆明モントリオール生物多様性枠組みでは、遺伝的多様性の保全の対象が、飼育種・栽培種とその近縁種から、在来の野生種全てに広がったことは、遺伝的多様性の保全の推進に向けた大きな一歩と言える。意欲的な目標採択に至った背景には、欧米を中心とした遺伝的多様性保全分野の研究者コミュニティから遺伝的多様性保全の必要性を政策担当者へ訴えかける動きが積極的に行われ、また、算出が容易かつ科学的根拠が明確な遺伝的多様性の評価指標が提案されたことが大きい。
本講演では、この評価指標の算出試行した結果について紹介するとともに、このような遺伝的多様性の保全推進の好機を活かし、取組を進めるにあたっての課題について紹介する。


日本生態学会