| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S07-4  (Presentation in Symposium)

普通種ブナにおける遺伝的多様性保全のための統合的研究—ゲノムから個体群動態まで
An integrative study for the conservation of genetic diversity in a common species, Fagus crenata — from genome to population dynamics

*戸丸信弘(名古屋大・院・生命農), 三須直也(名古屋大・院・生命農), 鳥丸猛(三重大・院・生物資源), 内山憲太郎(森林総研), 中尾勝洋(森林総研関西支所), 竹内やよい(国立環境研究所), 遠山弘法(国立環境研究所)
*Nobuhiro TOMARU(Nagoya University), Naoya MISU(Nagoya University), Takeshi TORIMARU(Mie University), Kentaro UCHIYAMA(FFPRI), Katsuhiro NAKAO(Kansai Research Center, FFPRI), Yayoi TAKEUCHI(NIES), Hironori TOYAMA(NIES)

現在では、生物多様性の基盤である遺伝的多様性の保全が必要であることは広く認識されている。森林を構成する樹木においても、絶滅危惧種や希少種はもとより、広域に分布する普通種でも遺伝的多様性保全のための保全遺伝学的研究が行われてきた。そのような研究では、管理の単位である保全単位が提案される。保全単位は、中立および適応的な遺伝的変異の両方で評価される必要があるが、これまでは適応的変異を明らかにすることが困難であったため、葉緑体DNAや核DNAの中立変異のみを考慮して保全単位を検討することが一般的であった。ところが、次世代シーケンシング(NGS)技術の発展に伴い、保全遺伝学の研究も全く新しい局面を迎えている。すなわち、森林樹木のような非モデル生物でも、NGSによりゲノム全体の中立変異だけでなく、適応的変異を調べられるようになった。また、この森林樹木の適応的変異に関する研究は、気候変動に対する森林樹木の適応性に関する懸念から加速している側面がある。なぜならば、局所適応を解明するための実証的研究から得られる知見は、進行中の気候変動に対する森林樹木とその生態系を適応させるための保全管理手法を考える上で極めて重要であるからである。本講演では、普通種ブナを対象として、最先端の集団ゲノミクスの手法を用いて、遺伝的多様性と集団構造の解明、デモグラフィーの歴史の推定、および適応的遺伝変異の解明を行った研究を紹介する。また、温暖化に伴う各地域のブナ個体群動態を解明した研究も紹介し、ゲノムから個体群動態までの統合的研究の展望について議論したい。


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