| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
シンポジウム S07-6 (Presentation in Symposium)
絶滅危惧種の生息域内および域外の保全や繁殖を推進するためには、個体数や遺伝的多様性をできるだけ正確に推定することが重要である。本発表では、哺乳類ではツシマヤマネコ、鳥類ではニホンイヌワシについて、野外や飼育下で採取した試料を用いて、遺伝的多様性、個体数の増減予測、有効集団サイズ等を解析し、他地域の亜種と比較した結果について報告する。
ツシマヤマネコは、東南アジアに分布するベンガルヤマネコの1亜種で、野生では長崎県の対馬に90-100頭が生息していると推定され、絶滅が最も心配される絶滅危惧1Aに分類されている。遺伝解析により、同じアムールヤマネコに属する韓国の個体群と比較して対馬の個体群は遺伝的多様性が低いことがわかった。その一方で、飼育個体群と野生個体群の多様性には大きな差異は見られず、飼育個体群が野生の補完として有用なことが示唆された。
ニホンイヌワシは、北半球に広く分布するイヌワシ6亜種のうちの1亜種で、個体数は約500羽と推定され、絶滅危惧1Bに分類されている。遺伝的多様性は野生と飼育で同程度であった。遺伝解析結果に基づいて飼育個体群の個体数の変動を推定した結果、160年後には飼育個体群が絶滅すると予測され、その回避には繁殖個体数の増加と野生からの遺伝子供給による近親交配の緩和が必要であることがわかった。
絶滅危惧種の保全は野生の保全と飼育繁殖の両輪で進めていく必要がある(One Plan Approach)。野生の補完として健全な飼育個体群を維持するには、遺伝的多様性に加え、免疫に関連するMHCや、繁殖や性格に関連する機能遺伝子の情報も重要と考えられる。2021年度から、環境研究総合推進費の委託を受けて、精子や卵子の保存条件を検討する研究を開始している。遺伝情報を活用して、フィールドと実験室、生態とゲノムをつないだ研究を深めることにより、保全に貢献していきたいと考えている。