| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


シンポジウム S07-8  (Presentation in Symposium)

遺伝情報から近年の有効集団サイズを推定する方法およびその代替指標
Genetic methods for estimating contemporary effective size and its alternatives

*秋田鉄也(水産研究・教育機構)
*Tetsuya AKITA(FRA)

COP15において採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」では、野生生物を対象とした遺伝的多様性の回復や保全のための行動指針が新たに記載され(ターゲット4)、そのヘッドライン(上位)指標として「有効集団サイズ(Ne)が500を超える集団の割合」が提案されている。したがって、Neやその推定方法に関する理解を深めること、推定に必要なコストを見積もること、代替指標を探索することなどは、これまで以上に重要になっている。

Neの教科書的な説明としては、「閉鎖集団における世代あたりの値であり、繁殖成功度の個体差・ボトルネックの経験・性比の偏り・近親交配の有無などの影響を受け、集団遺伝学で用いられる理想モデル(各個体は平均1のポアソン分布に従って再生産する)のもとでは実際の個体数と一致する」といったものが一般的であろう。また、Neの逆数が、遺伝的多様度が世代あたりに失われる速度となる。

ややこしいことに、Neの定義や推定方法は複数ある。Neを計算した既存文献を眺めると、Neの推定値として数値が1つ与えられている場合もあれば、現在から過去に向けてNeの動態が図示されている場合もある。一方、後者の結果は近年(<10世代)に関して解像度が無いことがほとんどである。モニタリング指標として最も知りたいのは、直近におけるNeの値やトレンドであろう。

本発表では、Neの推定方法を時間軸の観点から整理し、特に直近のモニタリングに貢献する方法(2点法・LD法・シブシップ法・IBD法など)を紹介する。各推定手法ごとに、どのようなデータが必要となるのか、サンプルサイズや遺伝マーカー数がどのように推定精度に影響するのかを示し、その利点や制約について比較検討する。また、代替指標についてもいくつか提案し、その妥当性について議論したい。


日本生態学会