| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
シンポジウム S08-2 (Presentation in Symposium)
陸上生態系において植物は一次生産を行い、土壌生物はその有機物を分解し植物に利用可能な栄養塩を放出している。また土壌生物に利用されなかった有機物は土壌炭素として隔離される。この地上部と地下部の相互作用によって陸上の物質循環は駆動されている。人間活動による土地利用の変化や温暖化などの全球的変化が生態系に及ぼす影響の予測や緩和には、地上部と地下部の生態プロセスのさらなる理解が必要である。現在、地上部と地下部の生物群集については、多様な種の分布や現存量、形質について全球レベルでの研究も増えてきている。さらに近年ではこれら両者の関係性や生態プロセスに及ぼす影響について研究されている。しかしながら、植物と土壌生物との関係についての研究は草原生態系や農地生態系での研究が多く、大きな地上部バイオマスを持つ森林生態系を対象としたものは多くない。また、技術的困難さから土壌生物が実際どのような資源を利用しているのかといった基礎的な生態情報も未だ乏しい。本講演では気候条件や植生といった環境の変化に対する土壌生物の応答について、演者が関わった研究の結果を中心に紹介する。日本列島の複数の森林で採集した土壌微生物やトビムシの群集の現存量や組成は、樹木の形質よりも土壌の炭素窒素濃度や年平均気温といった要因によって大きく影響されていた。また、土壌動物の食物年齢(光合成から食物資源として消費されるまでのタイムラグ)を寒帯林から熱帯林まで調べた結果からは、予想された年平均気温との明瞭な関係性は見られず、おおよそ10年以内の食物年齢を示していた。これらの結果は、植物の形質が土壌生物に与える影響の強さは植生タイプによって異なること、多くの土壌動物やそれに連なる食物連鎖が食物資源として利用する炭素は、生態系全体の炭素循環とは異なる気温依存性があることを示唆している。