| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
シンポジウム S08-5 (Presentation in Symposium)
微生物研究の基本は環境試料からの目的機能を有する株の「単離培養」である。我々は、高度に難分解性の有機塩素系殺虫剤gamma-hexachlorocyclohexane (HCH) で汚染された土壌から、HCHを単独で分解資化する細菌株を単離し、細菌によるHCH分解代謝系の全貌を明らかにした。また、地理的に離れた環境から取得された複数のHCH分解細菌株のゲノム比較を通じて、HCH分解細菌の出現と進化に関するモデルを提唱した。さらに、同一の土壌から、ゲノムの基本骨格は同一だが、HCH分解機能に関しては異なる株を単離することで、土壌中のHCH分解細菌が実際に集団として進化していることを示す結果を得た。一方、HCH分解細菌株を用いて、細菌の新規代謝能力の獲得や進化に重要な細胞機能に関する知見も得ている。このように、単離した分解細菌株の実験室環境での研究から、細菌の機能の進化に関する様々な重要な知見を得た。しかし、実際の環境中では、分解菌が単独で存在する状況は考え難く、「様々な要素を含む複雑な環境下」で、難培養性のものを含む「異種細胞との相互作用ネットワーク」を形成・維持しながら、能力を発揮していると考えられる。実際、HCH分解細菌も、集積培養により得られた非分解細菌を含むヘテロなHCH分解細菌コミュニティの方が、分解細菌単独よりも長期持続的な分解能力を発揮する。そこで、現在、我々は、HCH分解細菌研究を単離菌株を用いた「種間相互作用」研究へ展開すると共に、「土壌細菌集団」の菌叢の時系列変化のデータから「種間相互作用」を解明することを目的とした研究を行っている。