| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
シンポジウム S08-8 (Presentation in Symposium)
ミニマリストアプローチは、生物群集を駆動するメカニズムに関するアプリオリな過程をできるだけ排した上で、観測データのみから群集を構成する要素間、あるいは機能との関係性を明らかにしようとすることに特徴がある(Ushio et al. 2018; Kondoh et al. 2020)。微生物群集は多様な種間相互作用と機能、そして早い個体群・群集動態によって特徴づけられるが、バイオインフォマティクス的アプローチを活用することで、高頻度、あるいは複数条件下での群集構造や機能に関する大規模データが取得できるという特性を持つ。これをうまく利用すれば、微生物群集はミニマリストアプローチによる生態学研究を進める上での最適なモデルシステムとなりうる。本講演では、土壌微生物の液体培養実験系を利用することで、これまで決して容易ではなかった、あるいはあまり着目されて来なかった新しい生態学が実現できることを紹介する。例えば、異なる条件下での相互作用を比較すれば、環境ストレスが群集ネットワークの構造に及ぼす影響を調べたり、そこで群集組成と相互作用変化が果たす相対的役割を評価することが可能になる。あるいは、群集構造や群集安定性といった群集レベルの特性が、どのように各生物群の特性と関係しているかに着目することで、キーストーン種や指標種といった群集生態学での基本的な課題に取り組むことも可能になる。大規模な時系列データを前提とするこのようなアプローチは、今後、環境DNAや音響観測などの大規模データ取得を可能にする新しい生物多様性観測手法の発展を受けて、よりマクロな生物群に対して適用されるようになることが期待される。なお講演で紹介する緒研究は、楊岱霖氏の博士課程におけるプロジェクトとして、永田裕二、加藤広海、川津一隆、長田穣、東豊浩との共同研究として実施され、楊氏の博士論文として公開されている。