| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


自由集会 W01-2  (Workshop)

シカが高密度で生息する島における植物の矮小進化:屋久島における事例
Plant dwarfism in islands with high density of deer: A case study in Yakushima Island

*高橋大樹(東北大学), 陶山佳久(東北大学), 福島慶太郎(福島大学), 瀬戸口浩彰(京都大学), 阪口翔太(京都大学)
*Daiki TAKAHASHI(Tohoku Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ.), Keitaro FUKUSHIMA(Fukushima Univ.), Hiroaki SETOGUCHI(Kyoto Univ.), Shota SAKAGUCHI(Kyoto Univ.)


周囲から強く隔離される島嶼では、生物の移出入が制限されることで大陸部ではみられない生物間相互作用網が形成されることがある。植物では、訪花者や植食者、他種植物との間の新規の相互作用により、様々な分類群において島嶼で特異な進化が起こり、結果として島独自の植物群集が形成された例も多く知られている。発表者はこれまで島嶼環境における植食者と植物の相互作用、特にシカが駆動する植物の進化に関する研究を行ってきた。幅広い種類の植物を採食するシカは、高密度環境下では下層植生に大きな影響を与えることが知られている。先行研究からも広島県宮島や宮城県金華山、さらに奈良公園などのシカの個体密度が高い閉鎖環境では、植物の被食防衛や採食回避のための進化が短期間でおきた可能性が指摘されている。九州南部 70kmに位置する屋久島はこれら地域と同様にシカの個体密度が極めて高い環境である。島内の高山域を中心に生育する100分類群以上の草本植物は、他地域の普通型集団と比べて植物体サイズが著しく矮小化している。これら屋久島固有の矮小植物群は古くから知られていたが、これまでその進化要因は明らかにされていなかった。本研究では屋久島の矮小植物群がヤクシカとの相互作用の結果形成されたと考え、この仮説の検証を行った。屋久島の高山帯に分布する40分類群と近隣地域の近縁集団を対象に、植物体サイズの計測、シカの嗜好性の調査、集団遺伝解析、葉内窒素濃度の分析を行った。これらを用いた多変量解析の結果、シカの嗜好性が強く屋久島の植物の矮小化に関連していることが明らかになった。またゲノムワイドSNPsを用いた分岐年代推定の結果より、解析対象種の半数以上は最終氷期中に九州以北の集団と分化したことが明らかになった。したがって屋久島の矮小分類群の多くは比較的最近屋久島に隔離され、ヤクシカの採食圧の影響で急速な矮小進化が起きたことが示唆された。


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