| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W02-1 (Workshop)
生物は多様である。従来の生態学では、生物の多様性が成立した要因や多様な種が共存するメカニズムを追求し、成果を挙げてきた。近年では、生物多様性が生態系や群集、個体群といったシステムの生態的特性(生産性や安定性)に対して、どのような影響をもたらすのかといった生物多様性の生態的帰結についても注目が集まっている。これまでの先行研究によって、種数は生態系や群集の生産性を、種内変異の豊富さは個体群の生産性を非相加的に変化させることが報告されてきた。このような生物多様性の生態的な効果は「多様性効果」と呼ばれている。一方、多様性効果の条件依存性や多様性効果に対して重要な種や遺伝子の特徴の理解はいまだ不足している。とりわけ、どのような遺伝的変異の組み合わせによってシステム全体に正の多様性効果/負の多様性効果が生じるのか、どの遺伝子の多様さが多様性効果に貢献するのかについて解明することは、多様性効果を理解し、農産業や生物保全などに応用するうえで、注目に値する課題である。このような課題の探究には、遺伝学的な解析が進んでいるモデル生物が有効である。そこで本研究では、ゲノムが公開されているキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)系統を用いて、生態学的実験とゲノム解析を組み合わせたアプローチにより、生態的特性に影響を与える遺伝的多様性をゲノムワイドに探索した。その結果、神経系の形成や個体の移動に関係する機能をもつ遺伝子の多様性が多様性効果を高めることがわかった。また、先行研究の表現型データを用いて、形質ベースでの遺伝的多様性と多様性効果の関係も検証したところ、一部の形質のみが多様性効果と有意に関連していた。最後に、本研究結果を踏まえ、生態的特性に対する多様性効果のメカニズムや高次遺伝基盤について議論する。