| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W08-2 (Workshop)
外生菌根(ECM)菌とアーバスキュラー菌根(AM)菌では窒素の利用形態が異なり、それぞれの優占度によって土壌中の無機態窒素の循環速度が異なることが知られ、森林を構成する植物種の菌根菌タイプの違いが森林の窒素動態に影響を及ぼすことが示唆されている。しかし、多くの研究では林冠木の菌根菌タイプの違いに着目しており、林床植生を含めた植生全体の菌根菌タイプの違いが窒素動態に及ぼす影響は明らかではない。日本の森林に広く分布しているササ類はAM菌タイプであり、ECM菌タイプの樹種からなる森林において高い細根バイオマスを有するササ類の多寡は、土壌中のECM菌とAM菌の優占度を変化させうる。また、シカ食害等によるササの消失を想定し、窒素動態と菌根菌動態を関連づけて把握することは、将来的な森林の生態系機能の評価につながるであろう。ここではササが密生している森林においてササを人為的に除去し、土壌の窒素動態と林冠木のECM菌動態に及ぼす影響を調べた。
林床にクマイザサが密生する森林においてミズナラ成熟木の周囲にプロットを設定した。ササ地上部を刈り取り、プロット外へ搬出した。処理前後で表層10㎝の土壌を採取し、窒素の化学性を中心に土壌の理化学性を調べた。樹木とササの細根バイオマス、ミズナラ根の菌根化率、菌根タイプごとの根端数を調べた。さらに菌根の菌種同定を行い、ECM菌群集組成を解析した。各項目について処理の有無および処理前後で比較した。
土壌中の無機態窒素量、菌根化率に処理の影響は見られなかった。ササの細根バイオマスはササ除去区と対照区で同等であった。処理区間および処理前後でECM菌群集組成に有意な違いはなかった。以上から、短期的にはササ除去が窒素動態やECM菌動態に及ぼす影響は小さいことが示された。ササ地上部除去後もササ細根が存在し、ミズナラの根圏環境が変化しにくいことが関係している可能性がある。