| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨 ESJ70 Abstract |
自由集会 W08-5 (Workshop)
リン(P)は、しばしば樹木の生理的プロセスの制限要因になっている。樹木は不足するPを獲得するために、土壌有機態P(土壌Po)の分解酵素ホスファターゼを細根から分泌して土壌Poの分解能を高め、無機態Pの吸収能を高めている。土壌Poは分解特性の異なる多様な化学形態(易分解性のモノエステル態P、難分解性のフィチン酸、ジエステル態Pなど)をとる。樹木はこれに対応した多様なホスファターゼ{上記3種の土壌Poに対してそれぞれホスホモノエステラーゼ(PME)、フィターゼ(PhT)、ホスホジエステラーゼ(PDE)}を細根から分泌し無機化を促進している。これらのP吸収特性は菌根菌タイプ(外生菌根(ECM)とアーバスキュラー菌根(AM))によって異なる可能性がある。温帯域では、AM優占林よりもECM優占林で土壌Po利用可能性が高く、菌根菌タイプがP循環に影響する可能性が指摘されている。
しかし、P制限下の熱帯域では、異なる菌根菌タイプを内包した林分レベルでのホスファターゼ活性、及びPMEのみの評価が多く、菌根菌タイプ間の土壌Po分解能の違いは未解明である。そこで、マレーシア・サバ州の熱帯低地林の野外施肥試験地{4処理(対照・窒素(N)・P・NP)}において、遷移系列や菌根菌タイプが異なる7樹種の細根ホスファターゼ3種の活性を樹種ごとに測定した。
P施肥により、7種すべてのPME活性が低下し、原生林種4種(ECM2種、AM2種)のPhT活性及び原生林種2種(ECM1種、AM1種)のPDE活性が低下した。このことから、菌根菌タイプに関わらず、多くの熱帯樹種は易分解性のモノエステル態Pの分解能を高め、特に原生林種は難分解性のフィチン酸やジエステル態Pの分解能も高めていることが示唆された。このように、熱帯域では、ECM樹種に加えてAM樹種も土壌Po分解によるP循環に寄与している可能性が考えられる。