| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


自由集会 W16-3  (Workshop)

訪花者の多様性ー機能関係におけるプロセスとはなにか :個体の行動変容の重要性【B】
What is a "process" in the context of diversity-function relationships of flower visitors?【B】

*池本美都(国立環境研究所)
*Mito IKEMOTO(NIES)

様々な個性を持った植物と動物は、どのような複雑な関係を結んでいるのか?これは多くの生態学者を魅了してきた問いであり、今現在も、多くの魅力的な研究が実施されている。近年の分子遺伝学的手法の発展の成果もあり、この問いは進化の文脈では比較的回収されやすくなってきた。一方で群集の文脈においては、未だに暗中模索となりがちである。これは、確率的な過程も多く生じる群集集合において、局所的で特殊な相互作用がどれだけの一般性と波及効果を持つのか、という疑問が必ずつきまとうからである。面白い系を見つける才能と運も必要であろう。LawtonとVellendが指摘した群集生態学の問題はここにある。しかし、こうした複雑性をブラックボックス化し続けるだけで、本当に群集の構造や機能を正しく理解できるだろうか。
 発表者は、上記の問題、すなわち植物を利用する動物の行動や形態が、どのように群集全体の構造や機能に結びつくのか、という課題に関心を持って研究を行ってきた。その困難さに時には挫折を味わいながらも、近年では作物の送粉者の多様性―機能関係というテーマに取り組んだ。多様性―機能関係においては、多様性が機能を高めるという「パターン」が90年代半ばから蓄積され、その「プロセス」として、相補性効果と選択効果があることが知られている。それらの相対的重要性がしばしば議論されるが、では、相補性効果はどのような「プロセス」で生じるのか?これを知るためには地道な生態観察が必要であるため、あまり調べられておらず、未知の点が多い。本発表では、送粉者の行動や形質、そして認識能力に着目したカボチャとニガウリでの研究例について主として紹介する。さらに、現在進行中の課題として、訪花者群集の害虫防除の機能についても紹介する。これらを通して、いわゆる群集集合における低次プロセスの解明がどのように群集生態学に貢献できるかについて考えたい。


日本生態学会