| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第70回全国大会 (2023年3月、仙台) 講演要旨
ESJ70 Abstract


自由集会 W20-2  (Workshop)

雄間闘争は緯度勾配をもたらすか?:クロサンショウウオにおける雄の頭胴長の地理変異【B】
Does male-male competition drive the latitudinal gradient ?: Geographic pattern of the male's snout-vent length in the Japanese black salamander【B】

*森井椋太(岩手大学), 安田晶南(弘前大学), 池田紘士(弘前大学)
*Ryota MORII(Iwate Univ.), Shona YASUDA(Hirosaki Univ.), Hiroshi IKEDA(Hirosaki Univ.)

緯度に伴う気温の違いは、生物に様々な緯度勾配を引き起こす。これらは一般的に、環境がもたらす自然選択に対する適応の結果として捉えられてきた。しかし近年、自然選択だけでなく、性選択も緯度勾配をもたらすことが示唆された。性選択の緯度勾配は、低緯度ほど実効性比が雄に偏るために生じる可能性がある。しかし、実効性比を野外で評価することは難しく、繁殖形質の緯度勾配も珍しいことから、このような性選択がもたらす緯度勾配について検証した例は少ない。
そのような中で、クロサンショウウオは雌雄それぞれの繁殖期間と個体数を把握できるため野外で実効性比を評価できる。また、本種は青森から福井までに広く分布し、雄は頭胴長が長い方が卵嚢を獲得しやすい。そのため、低緯度ほど実効性比が雄に偏ることで雄間闘争が強いならば、頭胴長も長い可能性がある。このことから、本種を対象とすることで、性選択がもたらす緯度勾配を検証できると考えられる。本研究では最初に、本種を111地点で661個体採集し、mtDNAを2領域と核DNAを5領域用いて系統解析を行い、系統が緯度に沿って分布しているかを調べた。その結果、緯度に沿って5系統に分かれることがわかった。次に、低緯度の系統ほど、実効性比が雄に偏るのかを9地点で定期調査を行うことで調べた。その結果、低緯度の系統ほど、繁殖期間が長いことで実効性比が雄に偏っていた。さらに、頭胴長の緯度勾配が存在するかを調べるため、雄573個体と、比較のために雌158個体の頭胴長を測定し、系統間で違いがあるのかを調べた。その結果、雌では緯度間で差がないのに対して、雄では低緯度の系統ほど長かった。また、飼育実験により、この緯度勾配は遺伝的に決まっていることが示された。以上より、低緯度では実効性比が雄に偏ることで雄間闘争が強く、それに伴って頭胴長も長い形態に進化した可能性がある。


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