| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S03-1  (Presentation in Symposium)

樹木年輪セルロースの酸素同位体比を用いた気候復元と年代決定【O】
Climate reconstruction and dating of wood using tree-ring oxygen isotop【O】

*佐野雅規(国立歴史民俗博物館)
*Masaiki SANO(Natl. Mus. Jpn. Hist.)

温暖・湿潤なアジアモンスーン地域では、水や光をめぐる隣接木との生態学的な競争が樹木の肥大成長を左右するので、年輪幅から気候変動の情報を抽出することが容易ではなかった。他方、樹木年輪のセルロースに含まれる酸素同位体比は、成長期の相対湿度と降水の同位体比によって規定されており、両者の気候因子とも夏季のモンスーン活動と強い相関を示すことが分かってきた。特に、2000年代に入ってからの分析技術の向上に後押しされ、樹木年輪セルロースに含まれる酸素同位体比の大量測定が可能になったことで、年輪幅では不適であった温暖・湿潤地域の気候復元(相対湿度、降水量、乾湿、雲量など)がアジア各地で多数報告されるようになった。本発表では、アジア各地で進められている年輪酸素同位体比による気候復元研究の成果を紹介するとともに、各地の気候変動が互いに関連することや、エルニーニョ南方振動(ENSO)や太平洋十年規模振動(PDO)といった地球規模の現象によって規定されていることを示す。次いで、年輪酸素同位体比の活用例として考古材の年代決定について紹介する。日本では、既に過去3000年超にわたる年輪幅の標準年輪曲線(年代決定の基準となる年代既知の年輪データ)が整備されているものの、年代決定の対象となる樹種やサンプルの年輪数に大きな制約がある。一方、年輪酸素同位体比は単純な気候因子によって規定されるため、樹種依存性が低く、個体間での変動パターンも年輪幅に比べ良く一致する。現在、日本においては、過去5000年間にわたる酸素同位体比の標準曲線が構築されており、それを用いた考古材の年代決定の事例を示す。また、遺跡から出土する大多数の木材は年輪数が30年に満たないため、これらの年輪年代を決定するための取り組みとして年層内の同位体分析についても紹介する。


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