| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S03-2 (Presentation in Symposium)
年輪は、樹木の維管束形成層細胞の分裂や分化により形成され、その形成は、気温等の外的要因と植物ホルモン等の内的要因によって制御されていると考えられている。年輪形成の環境応答を理解するためには、形成層活動や木部分化の季節性、木部形成と葉等の他の器官との関わり、これらの樹種特性を理解し、外的および内的要因が年輪形成に与える影響を個別に整理する必要がある。
広葉樹環孔材は、年輪の最内部に孔圏道管と呼ばれる大径道管が形成される材である。冷温帯に生育する落葉性環孔材樹種の主要な通水経路である孔圏道管は、凍結融解ストレスにより一年で通水機能を失うため、落葉性環孔材樹種の生存には、毎年春先に孔圏道管が確実に形成されることが必要不可欠である。そこで我々は、孔圏道管の形成機構の解明を目的とし、まず、孔圏道管の形成過程を樹幹の高さ別に観察し、葉のフェノロジーおよび樹幹の水分布の変化と同一時系列内で比較した。当年孔圏道管は、開芽前に樹幹全体で形成が開始し、開芽時に樹幹の上部から先に通水機能を獲得していた。環孔材樹種では、当年芽の伸長には前年孔圏外部による通水が寄与し、当年孔圏道管による通水は当年葉の展開に寄与するといえる。次に、当年孔圏道管形成開始の制御要因を特定するために、休眠期樹幹に対し局所的加温と摘芽の複合処理を行い、孔圏道管形成に与える影響を観察した。芽の有無に関わらず加温処理により早期に道管形成が誘導されたが、加温と摘芽の複合処理下では小径道管がわずかに形成された。これらの結果から、樹幹温度の上昇が孔圏道管形成開始の直接的な引き金であり、道管形成開始に芽や葉は必要ないこと、大径の孔圏道管が継続して形成されるためには、芽や葉の成長が必要であることが示された。
本講演では、これらの研究成果を詳しく紹介するとともに、落葉性環孔材樹種の春先の木部形成の特徴について考察する。