| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S04-1  (Presentation in Symposium)

趣旨説明: 生物群集の多重安定性と生態系機能の制御可能性【O】
Introduction: Multistability of communities and controllability of ecosystem functions【O】

*東樹宏和(京都大学)
*Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.)

生物種の組成(群集構造)には、安定なものと不安定なものがある。この群集の構造と安定性の関係を表現した「安定性地形」に関する概念的・理論的な研究が半世紀以上に渡って展開されてきた。しかし、実証データに基づいた厳密な研究はほとんどなく、生物群集の動態を理解する上で大きな課題となっている。
そうした中、次世代シーケンシングで得られる膨大な生物群集情報をもとにした実証研究によって、生物群集組成の「多重安定性」を定量的に評価することが可能となりつつある。本発表では、CREST「バイオDX」研究領域において2023年10月から始動した研究プロジェクト「多種生命システムの安定化と機能最適化を実現する融合科学の創生」(研究代表:東樹宏和、共同研究者:鈴木健大・山道真人)における最新の研究成果を紹介しつつ、生物群集の代替安定状態を探る挑戦について議論する。
上記プロジェクトでは、植物共生微生物叢や土壌微生物叢、魚類共生微生物叢等を対象に、数百から数千検体の生物群集サンプルを多角的に分析している。この膨大な反復サンプルのデータに「エネルギー地形解析」を適用することで、代替安定状態を検出するとともに、代替安定状態どうしを障壁となっているtipping pointsをあぶり出すことができる。
さらに、数百時間点にわたる時系列分析により、数千種の個体群動態を一挙に解明するアプローチをルーチン化しており、時系列因果推論によって、生態系全体の因果関係ネットワークを推定している。こうした分析を統合した上で、生態系機能の異なる代替安定状態間のシフトを人為的に誘導できるかどうかを検証する準備を進めている。ヒト腸内細菌叢研究における新展開の可能性にも触れながら、将来像を議論したい。


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