| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S04-5  (Presentation in Symposium)

淡水細菌群集の代替安定状態と再帰的なレジームシフト【O】
Alternative stable states and recurrent regime shifts in freshwater bacterial communities【O】

*島玄太(京都大学)
*Genta SHIMA(Kyoto Univ.)

多種から構成される群集では、複数の安定状態が存在する多重安定性の可能性が古くから研究されてきた[May 1977, Nature]。ある安定状態から異なる安定状態への移行は群集組成の劇的な変化を伴うレジームシフトとして観測されるという仮定のもと、観測データから多重安定性を推定する試みが発展してきた[Scheffer et al. 2001, Nature]。しかし、代替安定状態の実証・検証は難しく、特に実際の生態系におけるこれまでの研究は、主に低次元のシステムに限られている。[Dakos & Kéfi 2022 Environ Res Lett]。

本研究では、環境中の微生物の種類と密度を推定できる定量DNAメタバーコーディング技術を用いて、実際に稼働している5つのウナギ養殖水槽中の細菌群集の動態を1日間隔で1年に渡り解析した。その結果、多種で構成される細菌群集の組成は、給餌や稚魚の入荷など多くの攪乱に晒されるにもかかわらず、数十日以上に渡り安定な状態を維持した。また、数十日以上維持されていた安定状態が、数日のうちに他の安定状態に変化するレジームシフトも複数回観察され、代替安定状態の存在が示唆された。

数百を超える多種系における定量的・高解像度・長期の時系列データは、近年のDNA解析技術の発達により初めて取得が可能となったデータであり、従来のデータより情報量が豊富で様々な解析が適用できる。ここでは、近年開発された2つの手法を用いて解析を行った。1つは、エネルギー地形解析[Suzuki et al. 2021, Ecol Monogr]による群集組成の安定性の推定である。もう1つは、時系列因果推論 EcohNet [Suzuki et al. 2022, PNAS]による種間相互作用の推定である。これらの解析の結果から、細菌群集の代替安定性について議論したい。


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