| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S04-6  (Presentation in Symposium)

多種共存理論の数理モデル【O】
Mathematical models of multispecies coexistence theory【O】

*山道真人(国立遺伝学研究所)
*Masato YAMAMICHI(National Institute of Genetics)

近年、侵入増殖率に注目して水平群集の安定共存を理解しようと試みるChessonの現代共存理論の発展により、競争種の共存についての理論・実証研究が大きく進んでいる。しかし一方で、そのような枠組みの研究における問題点が指摘されることも多い。
もっともよく指摘される点は、2種系の競争に着目した研究が多く、3種以上の群集における安定共存について調べるための理論が未整理だということであろう。ペアワイズの相互作用を越えて、高次相互作用(higher-order interaction)や相互作用連鎖(interaction chain)について調べること(Levine et al. 2017)や、食物網のネットワーク理論と共存理論の統合(Godoy et al. 2018)が望まれている。また、振動依存の多種共存メカニズム(Huisman & Weissing 1999)についての理解も、さらに深めるべき余地がある。このような問題に対処するために、最近では侵入グラフによって群集集合と共存を解析する手法も提案されている(Spaak & Schreiber 2023)。
さらに、定常環境におけるニッチと競争能力の差を定量する研究(Chesson 2000)と、振動依存の共存メカニズム(ストレージ効果・相対的非線形性)の相対的重要性を定量する研究(Chesson 1994, Ellner et al. 2019)との間にギャップが存在するという問題がある。どちらも侵入増殖率に注目しているという点は共通しているが、どのアプローチを採用するかによって異なる結論が得られる可能性がある。振動依存の共存におけるニッチと競争能力の差を定量するなどして、現代共存理論の枠組みを統合していく必要があるだろう。
また、共存理論における動的な数理モデルと統計モデルとの橋渡しもうまく行っていないという指摘もある(Terry & Armitage 2023)。近年のデータ量の増加や統計的手法の発展も踏まえた上で、群集生態学の理論を実証と組み合わせ、複雑な群集動態の理解を深めていくことが今後は重要となっていくと考えられる。


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