| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


シンポジウム S05-8  (Presentation in Symposium)

日本とブータンから考えるフードシステムの生態学【B】【O】
Contemplations on the Ecology of food systems from Japan and Bhutan【B】【O】

*小林舞(京都大学)
*Mai KOBAYASHI(Kyoko Univ.)

アグロエコロジー的農業は、慣行の生産体系より持続可能な選択肢を提供すると考えられてきた。工業的農業に比べ、より持続可能で環境にやさしく、投入資材への依存度が低く、技術集約度の低い農法やシステムを提唱するものの、実際のアグロエコロジー的農法の普及に結びついて来なかった。その結果、世界的に工業的農業の優位性がますます高まっている。この課題を認識したアグロエコロジーを推奨する研究者や実践者らは、アグロエコロジーの科学的知識基盤の発展を維持すると同時に、その知識を現場で応用、拡大し、さらにアグロエコロジーの社会変革の側面と呼ばれる、食との関わり方を根本的に変えることの重要性を強調している。
 本発表の目的は、日本において、よりアグロエコロジー的な農業形態を追求することの実行可能性と課題をより理解し、農業生産システムにおける持続可能性を追求するためのフードシステムの視点の重要性についての洞察を提供することである。具体的には、京阪神の中山間地域における多様な農業生産者の労働条件に関する比較調査の分析を通じて、アグロエコロジー的変革の重要性を検討する。生鮮野菜や果実を栽培している慣行、有機、アグロエコロジー的生産者8人への聞き取り調査を行なった。ベルギーの農村を調査したデュモンとバレによる研究分析手法を援用し、アグロエコロジーの生態学的原則を補完する社会経済学的原則、労働条件を決定する9つの要素:自由度、収入と社会的便益、安全保障、政治、仕事時間、本質的利益、不快感、労働衛生、能力について観察を行なった。その結果、調査対象地域における生産者はベルギーの農家と比べ、労働環境を自分で管理できており、居住している地域社会との協調を重視しつつ、アグロエコロジー的農法を模索するニッチを作り出していたことなどが示唆された。


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