| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
シンポジウム S05-9 (Presentation in Symposium)
演者は、2017年から京都市と新潟県十日町市松之山地域下川手集落での2拠点生活を送っている。本講演では、演者が生活の中で目にした下川手集落の持続的フードシステムについて、特に「米」と「野菜」に注目して紹介したい。
松之山地域ではコムギの生産は過去も現在も行われていない。魚沼産コシヒカリの産地であることもあり、コメ中心の食生活である。小学校の給食は、ごはん、米粉パン、米粉麺と、100%米である。小麦粉の代わりに使われるのは、くず米から作られる「米粉」である。お正月にはもち米100%のほかに、もち米50%、米粉50%の「粉もち」をつく。郷土料理の一つに、長野県で有名な「おやき」に似た「あんぼ」があるが、皮は小麦粉ではなく米粉で作られている。
下川手集落の住民は、みな精力的に野菜を作っている。下川手集落には「美人林」という年間5万人が訪れるブナ林があり、その入り口にある無人市で売るためである。この無人市のシステムも持続的である。野菜陳列時に、新鮮さや見栄えなどを相互監視して、問題がある野菜は並ばない。キュウリ4本、ナス5本、ピーマン6個はすべて100円だが、そのうち20円は無人市の維持費としてプールされている。野菜を育てる際も、農薬は極力使わず、肥料も近くにあるなめこ工場の廃おが(なめこの菌床として使われた後のおがくず)を使っている。安価で安全、品質もいい野菜は観光客はもちろん、旅館の料理人もよく買いに来ている。数字までは教えてもらえなかったが年間数百万円の売り上げがあるとのことである。
水田も無人市も、担っているのは平均年齢80代のおじいちゃん、おばあちゃんである。唯一持続的でないのは、下川手集落そのものである。ICT技術も発達した現在、生態学者こそ、集落維持の力となるのではないかと演者は期待している。